企業で働きながら個人制作を続けるには? SILHOUETTE BOOKS(梶原恵・新島龍彦)|D-LAND TALK 001

D-LAND TALKは、ワクワクしながら「ものづくり」を学ぶ、美大生のためのトークイベントです。美大生が会いたい35歳以下の先輩クリエイターをゲストに招き、表現や活動の源泉となっている原体験や、学生時代のエピソード、社会に出てからのリアルなものづくりの話などを聞いて、自分の未来像をイメージできるような時間を過ごします。

今回のゲストは「SILHOUETTE BOOKS(シルエットブックス)」。デザイナーの梶原恵(かじわらめぐみ)さん、造本家の新島龍彦(にいじまたつひこ)さんからなるユニットです。光と影を使った絵本『MOTION SILHOUETTE』は、2015年に「世界で最も美しいコンクール」にて銅賞を受賞。今回はお二人に「企業で働きながらも、作家として個人制作を続けることはできるの?」という美大生の悩みについてお話しいただきます。将来の働き方に、期待や不安を抱いている美大生は、何かヒントを得られるのでしょうか?

 

会社員の二人が「SILHOUETTE BOOKS」を組んだきっかけ

——お忙しい中、D-LAND TALKにご参加いただき、ありがとうございます。司会進行役を務めさせていただく、武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科2年の西村俊亮(にしむらしゅんすけ)と申します。本日のゲストは、日本デザインセンター 原デザイン研究所のデザイナーをしていらっしゃる梶原恵さんと、篠原紙工に勤務しながら造本家をしていらっしゃる新島龍彦さんのユニット「SILHOUETTE BOOKS」です。まずはユニットの紹介をしていただきます。どういった作品をつくっていらっしゃるんですか?

新島さん 一番最初につくったのは、『SILHOUETTE』。開くと、真ん中にポップアップが立つ仕掛け絵本です。ポップアップをライトで照らすと表れる影がイラストと重なって物語になります。特徴は、影が落ちる左右のページで、物語が変化するところです。大学3年生の時に受けた授業がきっかけで、梶原さんとつくるようになりました。

梶原さん Arduino(アルディーノ)というセンサーを使って、インタラクティブな作品をつくる授業です。最初は別々に本のアイデアを考えていたんだけど、悩んで、二人で組んだほうがいいんじゃないかって。左右にライトを置いて、ページをめくるとセンサーが反応して、ライトが左から右に切り替わる本をつくりました。完成したあと、「センサーがなくても大丈夫そう」って、ライトを持って遊べる仕掛けに変えました。

新島さん 光を本の要素にしたら、開くたびに印象が変わるんじゃないか。光源が多い空間では影がいくつも出るし、光色によっても、影の表れかたが変わっていくというテーマをお互いに持ちました。

梶原さん 大学を卒業して、すぐにこのテーマでもう一冊つくることにしました。それが、『MOTION SILHOUETTE』です。見てもらいたい、動画があります。

新島さん 『SILHOUETTE』を見てくれた方から、「影を動かして楽しむとおもしろい」って言っていただけて、『MOTION SILHOUETTE』の制作では動きをかなり意識して制作したかな。

梶原さん 例えば、上から光で照らすとぐんぐん伸びていく木になったり、町に落ちていく雷を表現してみたり。

 

——動かすことがおもしろいことにも共感するんですが、ぼくは木と雷のように影だから同じ形でも周りの絵に写ると役割が変わることをおもしろいって思いました。

新島さん&梶原さん ありがとうございます!

新島さん 影が落ちて物語が生まれるというフォーマットが一つできたけど、それに当てはまるアイデアを考えるのはやっぱり苦労しました。見開きごとにそれぞれ考えて、持ち寄って、使えるかどうかを話し合って、つくっていって。2013年3月に卒業して、年の瀬に『MOTION SILHOUETTE』ができて以来ずっと自分が手製本を担当して、梶原さんがイラストを担当するようになったよね。

梶原さん 『MOTION SILHOUETTE』は、グラフィック社から出版されるようにもなっていって。

新島さん これまで400冊はつくって、国内外で買ってもらえました。

 

——自分の手でつくった絵本が世界の誰かの手元に届くことをどう感じていますか?

新島さん 全部自分でつくっているので、何かあったら100%自分が悪い。ページが汚れているとか、折れているとか、穴があっちゃいけないという責任感が芽生えたかな。

 

——大学生の頃に課題でつくった心情とはだいぶ変わっているんですね。

新島さん そうだね。でも、『MOTION SILHOUETTE』をつくっていると、ちょっと落ち着く感じもあって。蛇腹折りにしていく時に折りのそろい具合が合ってきたとか、表紙の角が綺麗に仕上がるようになったとか、繰り返し調整していくことを積み重ねていきながら、今もつくっているんですよ。

 

コンペで受賞した以上に作品を世に広めた取り組み

——今回、「SILHOUETTE BOOKS」のお二人に「ときめきグラフ」をつくってきてもらいました。「ときめきグラフ」は、年代ごとのテンションを数値にして、浮き沈みをわかりやすくしたグラフです。2012年から始まっているのは、お二人が一緒につくりはじめたからですよね?

梶原さん 『SILHOUETTE』は、課題で制作できたんですけど、最初はそこまで反響があったわけではなくて。

新島さん 授業の課題は、センサーだったから。

梶原さん 動いていたらよくて、私たちも何とか動いていたから、良い成績ではあったよね(笑)そのあと、2013年にLOCUS DESIGN FORUM[書・築]展に応募しました。

新島さん 代官山で開催された、韓国・中国・日本のデザイナーやアーティストがつくった本を展示する企画で、その時に入賞しました。だから、ちょっとテンションは上がっています。

 

——2014年には一番高くなっていますが、何があったんですか?

新島さん 『MOTION SILHOUETTE』が賞をいただいた頃かな。「東京国際ブックフェア」の「造本装幀コンクール」という国内で書店流通している本のコンペがあるんだけど、「出せるかな?」って梶原さんに電話で問い合わせてもらったら。

梶原さん 出すだけ出せることはわかって、とりあえず応募して。

新島さん 賞をいただけたタイミングで、さっきの動画を大学の友人に撮ってもらって、Webに上げると、それがものすごい反響になって。1日に100件ぐらい、海外からメールが届いた。

梶原さん この動画を撮ったのも、イベントで『MOTION SILHOUETTE』を販売する時に、一見ただのポップアップ絵本に見えてしまうから、説明用の動画が必要だって話して。また一冊ずつ手製本で制作していることも伝えたいと思い、映像作家の友人にお願いしました。その結果、とても魅力的に撮ってくれて。

梶原さん 二つの動画をTumblrに上げたんですけど、フォロワー10名ぐらいだったのにどんどん広まっていってしまいました。

 

——受賞以上に、動画で広まったんですね。

新島さん うん、動画が大きかったと思います。

梶原さん 作品をつくったあと、写真や動画を撮ってアップするのは良い手段だって、最近思います。

新島さん 大学生の頃から、梶原さんは意識して作品を誰かに伝えようとしてくれて、それがあったから今があるんだよなぁ。

 

——2017年に下がってしまったのは何かあったんですか?

梶原さん 私は転職活動をして、新島くんは個人の活動をして、「SILHOUETTE BOOKS」は特に動いていなかったので20というふうに。今年に入って、紙博に出した新作の評判がよかったから、2018年は50ぐらいという感じです。

 

会社の仕事も個人の制作も気持ちのベースは同じ

——そんな「SILHOUETTE BOOKS」のお二人に、今回のテーマ「企業で働きながら個人制作を続けるには?」という話を聞いていきます。生きていくにはお金が必要になってきて、お金を稼ぐには働くか物を売るかになっていくと思うんです。それはわかるんですが……お二人は今働いている企業に満足していますか?

梶原さん 私は卒業後に松田行正さんの事務所でエディトリアルデザインをしました。本をつくる仕事が好きで。ただ、『MOTION SILHOUETTE』がきっかけで、徐々に、映像や写真を撮ったり、Webサイトをコーディングしたりして、いろんなメディアに落とし込むことへの興味が大きくなりました。28歳だったので、転職するなら今だと感じて、いろんなメディアに深く関われて長く価値を残しておくことに重きを置いている、日本デザインセンターを受けました。

新島さん 自分は卒業して1年間、神保町の竹尾という紙の商社でアルバイトをして。2014年4月から篠原紙工という製本会社に入りました。篠原紙工に入ったのは、『MOTION SILHOUETTE』を量産できるか探るために、いくつかの製本会社に相談していったことがきっかけで。アルバイトで社会人とも言い切れず、個人で活動をしていきたいけど、このままではどうにもならないだろうという気持ちもあって、どこかに勤めるなら製本会社がいいと思っていたから、『MOTION SILHOUETTE』の打ち合わせでちょうど社長と話していた時に、求人があるか聞けちゃって。

梶原さん のちにグラフィック社から出版された『MOTION SILHOUETTE』の製本も篠原紙工に担当してもらっているんだよね。

新島さん 篠原紙工では、主に手製本を担当していて、1日に1000冊分の本の表紙を手で貼ることもあります。日常作業で得るものがあるし、休日に会社の機械を使ってもいいと言ってもらえていて、感謝しかないんですよ。

 

——就職するとお金に見合った仕事をしないと給料をもらえないと思うんです。優先順位は仕事が上になりませんか?

新島さん 上だと思ってる。個人の活動はあくまで個人の時間でやって。

 

——それでも個人制作を続けていらっしゃるのは、やめたくないという気持ちが強いからですか?

新島さん 個人の活動って大変だしつらいこともいっぱいあるだけど、労力はかけていても、やりたいからやっているに近いかな。

 

——趣味にみたいに?

新島さん 趣味とはちょっと違うんだけど……。

梶原さん 楽しくなかったら、やる必要はないかな。

新島さん でも趣味と制作の違いって……。

梶原さん それは私も何だろうって思う。自分がやりたいことをできるようになったら、会社の仕事でも自分の願いが叶うこともあるし。だけど会社と制作ではデザインする時の考えは違っていて。ただ、会社の仕事も、「SILHOUETTE BOOKS」の制作も、どちらも本業で、どちらも楽しくできている気がしていて。

 

——楽しいって重要ですよね。無理して、1日の睡眠時間を2時間まで削ってしまうようなことだと長続きしないと思いますし。

梶原さん あっ、そういう時はある(笑)

新島さん 個人制作にも決めたリミットがあるから。イベントまでに作品をつくらなきゃいけない。それを守るために、睡眠時間を削ることはあって、梶原さんに苦労をかけているし自分も辛いんだけど、でも全体としてみた時に無理しているわけではないという感覚なんだよなぁ。

 

制作を続けていきたい美大生が卒業までに見つけるといいこと

——ぼくたち美大生に置き換えると、仕事は課題制作で、お二人のような「SILHOUETTE BOOKS」の活動は自主制作だと思うんです。ぼくたちもアイデアを出してコンペに挑もうとするんですけど、どうしても課題の講評会を優先してしまいます。コンペの応募やポートフォリオづくりに重きを置けるようになることは課題です。そんなぼくたちに何かアドバイスはありませんか?

新島さん アドバイスかぁ……。

梶原さん 私は、学生の時に課題をしつつ、個人制作にも締め切りを無理矢理に設けて同じレベルで進めていました。絶対に守らなきゃいけないと自分に刷り込ませて。課題が二つあったなら、それに一個増えるだけなので、クオリティが保てていないと人に見せるのは難しいけど、頑張って何とかしてたかな。

新島さん めちゃくちゃ根性論(笑)

梶原さん 失礼しました(笑)

 

——でも、ぼくにはすごい参考になります。つくりたいと思っているだけだと、「いつやるの?」ってなってしまうけど、課題と同等の場所に置いてあげたら、頭の中にずっと残るからつくっていけるってことですよね。

新島さん 少し近い話ではあるんですけど、自分は大学を卒業して、どうやってつくっていいかわからなくなった時期があるんですね。大学にいる時って課題が与えられている状態。自分は本をつくったし、ふつうにものをつくれるって気持ちで卒業したんだけど、全然つくれなくて。それは、卒業すると課題を自分で見つけなきゃいけないし、いつまでに完成させるのかも自分で決めなきゃいけなくなってしまったから。それを決められないと、何かをつくろうと思っても、一つのアイデアを詰めて考えているうちにおもしろくないと思って、止まってしまって、次の違うアイデアを考えだしてしまう。それであまり積み上がっていかなくなってしまって……。だから、自分にとって、どうつくるのが楽しいのか、やりやすいのか、卒業するまでに見つけることは重要ですよ。

 

作品のクオリティを高めたい美大生が意識するといいこと

——製本工場で働いている新島さんには、デザインってどういうふうに見えますか? お二人がユニットを組んでいるように、つくる方がいて、デザインがある社会になっています。でも、もしかしたら、新島さんは自分でデザインして世の中に出していけるかもしれません。だから、どういうことをデザインに求めているのか聞いてみたいです。

新島さん ちょっとズレたところから話し始めますね。篠原紙工に入りたいと思った時は、自分でブックデザインをすることも全然アリだと思っていたんですよ。ただ、量産したり、機械や手を使ってつくっている人を知っていないと、本をつくれないんじゃないかとも思っていて。本がどういう状況で印刷されて、断裁されて、折られて、という工程を一つずつ知ることで、できることが増えていくような気がしていました。それで篠原紙工で働くようになって、デザイナーさんの話を聞いていると、立場が違うことを感じて。例えば、この一冊をつくると、どれぐらいゴミが出るのかとか、本が1センチ小さくなれば紙を100枚使わなくて済むとか。デザインで得られる良さと、失う資源が本当に釣り合っているのかなっていうことが気になるようになりました。

梶原さん そうか……なんだか、仕事のことを思い出してしまいました。斬新でおもしろいけどお金がかかる案を叶えるために、予算が限られる中で試行錯誤をして、無理をしてつくるのはデザインの在り方として正しいのかと思うことがあって。うまくいく時ってあまり無理がないように思っていて。アイデアをはじめすべてのことがうまくいくのは、デザインの理想だと思うんです。新島くんが言うようにデザインの形を実現すると無駄な部分が出てくるというようなことを含めて、解決できる人が良いデザイナーなのかな。つくっている人たちの意見も聞かないとダメだなと感じました。

新島さん デザイナーさんは、相談相手が「できない」って言っている理由を突っ込んで聞いてほしくて。理由はお金なのか、技術なのか、スケジュールなのか。技術なら、どこを変えたらいいのか。聞いて、考えて、経験を蓄積してくれているデザイナーなのかどうか。実際に素材やつくりかたと、デザイナーさんのつくりたいと考えていることが結びついていたら、どちらにも無理は出ないんですよ。

 

——似たような課題に大学で取り組んだことがあります。ものも、パッケージも、ロゴもデザインするんですが、予算があるという課題で、1回目からうまくできないんですけど、学べるチャンスだったんだなって感じました。

新島さん うーん、どう説明したらいいのかむずかしいけど……ただ、自分の目指しているクオリティの理想値に届かないっていうのは、それが自分のレベルだと受け入れなきゃいけないんだって思う。時間やうまくいかなかったところを含めて自分のレベルなので。目指しているクオリティに至らなかったからやめるんじゃなくて、次はどうしていくっていうことを積み重ねていくと意味が出てくるかな。理想に届いたことって、「SILHOUETTE BOOKS」にもなくて、前よりよくなったと思うことはあっても、それが完璧だとは1回も思ったことがない。お金をもらって大丈夫だというクオリティを保ちつつ、少しずつ経験値を貯めていくことが必要だと思うんですよ。

 

卒業後の進路を考える美大生にアドバイス

——今、美大生にはデザイナーさんを何人も調べている学生がいれば、ただ自分がしたいことを突き詰めている人もいます。先輩たちがどういうことをしてきたのかを調べて、知っておかなきゃダメなのか、そこまで先輩たちに左右される必要はないのか、どっちだと思いますか?

新島さん その人がどうなりたいのかで変わってきます。自分は、したくないことはしない、「やりたいこと」を「やらなきゃいけないこと」にしていきたかったから、自分が何をしたいのか決めていったタイプです。

梶原さん 尊敬する作家さんはいるけれど生い立ちを参考にすることはあまりなかったです。ただ会社に関しては、何に重きを置いて、どのような仕事をしているのか調べていたように思います。

 

——広告がやりたいなら、博報堂に入ることを目標にするというように、したいことにどういう手段があるのか調べるんですね。

新島さん その人にとって成功や幸せをどこにおくのかだと思う。自分たちも、何年前からみれば今の状態は進んできているけど、今が成功や幸せかって言われたらそんな気持ちはなくて。20代で『MOTION SILHOUETTE』で受賞しているから他の人から見ると良いと思われることはあるのかもしれないんだけど、いつつくれなくなってもおかしくないっていう気持ちで今もいるんですよ。

 

参加者とのフリートーク

Q.1日のスケジュールを聞きたいです。

新島さん その頃のテンションによって違います。今は落ちているので、7:00に起きて、ごはんを食べて、家事をして、8:20に家を出て、9:00に始業。18:00が定時ですけど、だいたい20:00ぐらいまで働いて、帰宅してから個人制作をするか、ごはんを食べて、テレビを見て、寝る感じなんです。だから個人制作の時間は、平日に取れて2〜3時間、例えばコンペの前のような力を入れる時は6:00に起きて2時間ぐらい作業してから出勤して、帰宅したらまた続きをしているかな。

梶原さん 私は10:00始業で18:00が定時。なんですが、忙しい時はずっと働いて、夜中に帰宅して、翌日10:00か、もう少し遅い時間に出社します。平日は個人制作をする時間を取れていなくて。土日に製作して、イベントの前のように差し迫っていたら、平日に早引きするか、代休を利用していて。平日に個人制作の時間を設けることは私の仕事だとむずかしいです。

 

Q.仕事でも、個人制作でもない時間は必要ですか?

新島さん 実は、つくっていない時間のほうがむしろ長いんですよ。何もしていない時間をどれくらい取れるかで、つくる時にどれぐらい集中できるか決まってきます。精神的にも、体力的にも、辛い状態で何かをつくるのは好きじゃなくて。仮に5時間空いたら、2〜3時間休みつつ、残り2時間で気持ちがMAXに高まった時につくることが多いです。

梶原さん 私は空いている時間に掃除をしています。身の回りが綺麗じゃないと、制作できなくて。精神衛生上、良いのかな。電車に乗っている時に、好きな人の作品を見ているので、あまり分けていないようにも思っています。

 

Q.会社に所属しながら制作しようと思った理由は?

新島さん 自分は卒業した時に個人制作でなんとかしたいと思っていて。自立して何かをやりたかったんですけど、限界をどこかに感じて入社して。だけど会社に勤めるのは抵抗があったんですよ。社長から、「何年くらい働くつもりがあるの?」って聞かれても、「2〜3年ですかね」って答えていたくらいで。ずっといるつもりはなかったし、嘘をつくのは嫌だなと思って。それが働くと、依頼を受けてちゃんと返すっていうことが全然できていないことに気づいて。そんな自分が独立して何かやっていくなんて無理だと思った瞬間があったんですね。作品をつくること以外に学ばなきゃいけないことがいっぱいあると思って。「作品をつくること≠仕事をすること」だと思いました。良い物をつくっても仕事としてダメなことはあって。「会社で働きながら仕事を学びたい」と思って、実際に今四年くらい経ちます。今は会社で働きながら、制作を続けていくことに生きやすさを感じていて、仕事と制作をどれだけ結びつけていけるかを楽しんでいます。

梶原さん 私の場合は、すぐに独立しようという思いはあまりなくて。技術的にも未熟だし、1本でやっていきたいこともなかったし、本当に社会勉強として就職しました。ただ、転職の時にフリーランスという選択肢もあったと思うんです。でも、仕事は仕事として安定したお金をもらって、それがゆとりを持って生活を保持できることにもなると思ったし、デザインの仕事も絵本の制作も好きだから両立できたらいいなと思って。フリーランスで依頼してもらうデザインの仕事より、いきたい会社に入ってできる仕事の方が大きいと思って、そういう経験を積みたい欲があったから、それと制作を両立していく方法を模索しているんです。

 

ーー以上で、D-LAND TALKはおしまいです。今日はとても楽しい時間を過ごせました。思った通りに言葉が出なかったり、頭が回らなかったりしたんですけど、最初に投げかけた質問の回答を聞いているうちに、僕が話を聞きたかった人が隣にいるんだって思って、幸運な機会に恵まれたことを初めて実感して。直前にアドバイスを頼んだら、「君が聞きたいことを質問すればいいんだよ。楽しんでいたら、共感してくれる人もいるから」って言ってくださって、安心して、聞きたいことを聞くことができました。ふと観客席に目を向けると、笑ってくださっていたり、うなづいてくださっていて。これでいいんだって、すらすら質問が出てきて。昨日の夜はへとへとになるんじゃないかって思っていたんですけど、疲れた以上に、良い話を聞けたなって思っていて、明日からどうしていこうか考えている自分がいます。帰ったら、忘れないうちに、今日聞いたアドバイスをメモしておきたいです。

 

梶原恵・新島龍彦/silhouette books

デザイナー梶原恵、造本家新島龍彦からなるユニット。
環境によって変化するインタラクティブな絵本をテーマに研究、制作を行う。
企画、イラストレーション、製本、販売に至るまでの全ての工程を二人で行っている。
光と影を使った絵本『MOTION SILHOUETTE』は2015年に世界で最も美しいコンクールにて銅賞を受賞。その後グラフィック社より出版され、現在も重版を重ねている。

<受賞歴>
LOCUS DESIGN FORUM ·書・築展ブックデザイン国際公募 入選
第48回造本装幀コンクール 読書推進運動協議会賞
2015年度 世界で最も美しいコンクール 銅賞受賞

http://www.silhouettebooks.jp/