年間100名以上にインタビューをしているd-land代表・酒井博基が、取材を通して得た新たな視点について振り返ります。
人生100年時代のライフデザインメディア『ウェルビーイング100 byオレンジページ』内の『ウェルビーイング100大学 公開インタビュー』は、さまざまなゲストの話から、これまでになかったウェルビーイングの視点や気づきのヒントを学ぶ連載企画。第30回のゲストに迎えたのは、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章さんです。データを中心に科学を駆使し、より良い社会の実現をめざして活動する宮田さん。データと私たちの生活の密接な関係や、未来に向けたウェルビーイングのあり方を考える濃密な時間となりました。
“平均からこぼれ落ちそうなもの”をどう捉えていくか
酒井
宮田さんのお話は、もう全部がおもしろくて。たとえば「日本は平均的な人にとっては優しい国なのですが、平均からこぼれ落ちた瞬間に、とても冷たくなるというのが特徴です」とおっしゃったうえで、こぼれ落ちてしまった人に対してデータを使ってどう寄り添えるか、というようなことを言っていました。
「データサイエンス」というと、ビッグデータで多くの人の最大公約数的な利益を探っていくイメージがあったんですが、それだけではなかった。日々のいろんな行動をデータ化し、活用することで、“個”に寄り添うこともできるものなんだなと、印象がガラリと変わりました。
平林
宮田さん自身も「データを使うからこそ、多様なウェルビーイングに寄り添えるし、より温もりのある社会をつくることができる」とおっしゃっていましたね。
酒井
いろんなプロジェクトでコミュニティデザインに携わることもあり、“個と集団”みたいなことは僕のテーマのひとつです。そのなかで、“個の時代”と言われているけれど、それをどう実現するのかということをよく考えるのですが、今回のインタビューでそこにデータサイエンスが深く関わっていけることをあらためて認識できました。
平林
ほかに「最も重要なのは『何をデータ化するのか』ということ。ここはまさに文系的な要素が非常に多くて、データサイエンスは文系理系両方のバランスが必要」というのも意外でした。
酒井
僕も、データサイエンスって典型的な理系分野だと思ってたんです。でも実は文系のセンスも必要だし、同時にすごくクリエイティブなんだなと。
デザインって、社会がどうあるべきなのかとか、文系だけでも理系だけでもない、いろんなものを融合させて考えなきゃいけないものですが、データサイエンスにもそういうイメージを抱きました。宮田さんとすごく話しやすかったのは、そういう側面があったからじゃないかと思います。
平林
おふたりの専門分野に共通点があったから、インタビューがより盛り上がったんですね。
私は、データの活用によって介護職員の業務が効率化され、被介護者の方の「今まで人生を捧げてきた畑に、もう1回行きたい」という要望に応えることができた、というお話も印象に残りました。
酒井
それも印象的ですね。社会全体を変えたいんだ!みたいな感じじゃなくて、データを使うことで誰かの気持ちに寄り添うことができる……宮田さんは大きな社会全体を見つつも、最終的な目的として、“たった一人”を見ているところがすごくいいなと思うんです。
行政とかでもそうなんですが、大きな仕組みのなかで動いていると、たった一人に向き合うことはなかなか難しい。目の前にいる人をなんとかしてあげたいという思いはあっても、どうにもならないことも多くあると思います。そういうジレンマがデータで解決できたらいいですよね。
平林
このインタビューで得た気づきをどんなことに活かしていきたいですか?
酒井
ちょうどいま、ある自治体と政策提言に関するプロジェクトを進めています。そのなかで、“平均値からこぼれ落ちそうなもの”をどう捉えていくのかというときの心構えとして、宮田さんの話が活かされると思います。政策提言というと、声が大きい人の意見が通っていくことが多かったと思うのですが、そうではない人たちの声もしっかりと拾っていけたらと考えています。